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チョコレートのNew Normal!Bean to bar(ビーントゥーバー)を徹底解説

2022.5.29

2023年1月19日更新
最近雑誌やテレビなどで目に触れる機会が増えたBean to bar(ビーントゥーバー)チョコレートとは、一体何なのでしょうか。
この記事を読めば、チョコレートのトレンドになりつつある「Bean to bar」についての概要が理解できるようになります。ぜひ最後まで読んで、一緒にBean to barチョコレートを楽しみましょう♪

Bean to bar(ビーントゥーバー)とは?

1.1.    Bean to barとは、カカオ豆からチョコレートまでを一貫製造するスタイルのこと

bean to barチョコレートのバー

Bean to barとは、文字通り「豆(Bean)から(to)チョコ(bar)へ」という工程を表現していると言えるでしょう。
語尾に「bar」とついているので、商品名なのかな?板チョコの新しい呼び方なのかな?と考える人も多いと思います。商品の表現としては、Bean to bar製法を用いて作られたチョコレートであることを「Bean to barチョコレート」「Bean to barチョコ」「Bean to bar板チョコ」などと記載している工房が多いようです。
※企業や工房によっては、商品のことをざっくりとBean to barと表現しているところも見受けられますが、今回の記事ではあくまで「チョコレートの製造スタイル」として記述します。

1.2.    Bean to barチョコを代表するシングルオリジン

シングルオリジン

Bean to barチョコとひとことで言っても、その表現方法はさまざま。おなじみのバータイプからボンボンショコラ、スイーツに至るまで、Bean to barスタイルを用いて作られたものは、全て「Bean to bar」をいう言葉が使用されています。
しかし、やはりBean to barチョコの特徴を最も強く表現し、また味わえるものは、「シングルオリジンのチョコレートバー」と言えるでしょう。さて、そのシングルオリジンとは、どのような状態を表すものなのでしょう?

1.3.    シングルオリジンのキーワードは「単一農家」

シングルオリジンという聞きなれない言葉ですが、コーヒー好きの方の中には馴染み深く感じる人もいるでしょう。端的に言うと「一種類のカカオ豆を使用して作られたBean to barチョコレート」のことになります。
この「一種類」を具体的に言葉にすると、①単一農家(生産者)、②単一生産国、③単一品種、になります。どれかひとつでも当てはまればシングルオリジンと言えます。
しかし、今回はBean to barチョコの特徴を最も感じられる①単一農家(生産者)のシングルオリジンについて言及していきたいと思います。

Bean to barチョコレート3つの特徴

単一農家(生産者)のシングルオリジンの特徴として、筆者が考える3点をピックアップしてみます。

2.1.    味

まずは一番大切な味について。
Bean to barチョコは、一般的なチョコレートとは一線を画すアロマ感や豊かなフレーバーがあります。カカオ豆の個性を引き出す生産者の腕と、加工者の丁寧な仕事により実現する、Bean to barチョコならではの特徴です。

2.2.    値段

Bean to barチョコレートは一般的なチョコレートの約2倍から3倍ほどの値段がするものがほとんどです。おいしいから、健康に良いから、自分や家族へのちょっとしたご褒美に買うのも素敵ですね。大切な人へのプレゼントにしても良いかもしれません。
「買い物は投票」なんて言葉が流行る中、いつもよりちょっと高いBean to barチョコを選ぶ利点についても、後ほど少しだけ触れてみたいと思います。

2.3.    希少性

ちょっと珍しい。あのお店でしか買えない。そんな希少性にワクワクし、面白さを見出す人もいるのではないでしょうか。Bean to barチョコの中には、大変貴重なカカオ豆を使用しているものや、工房のこだわりがつまった期間限定商品が多くあります。
Bean to barチョコの表現はワインよりも複雑になるとも言われているほど多彩です。ワインやサードウェーブコーヒーのように、製造過程や目的によって商品を選ぶ、嗜好性の高さもBean to barチョコの特徴といえるでしょう。

Bean to barチョコ=「生産者×加工者×消費者」の良い循環

Bean to barスタイルについて調べていくと、関わる人にとって大変良い循環を生み出していることがわかります。「豆からチョコへ」はイコール「生産者(Bean)」⇨「加工者(to)」⇨「消費者(Bar)」とも言えるかもしれません。

カカオの果実とチョコレート工房

3.1.    生産者にとっての良いところ

生産者

3.1.1.      経済・労働状況の安定

チョコレートの原材料となるカカオ豆の生産者は、すでに自立し、加工者と交渉できる人たちもいれば、国や地域によっては低賃金で働いている場合も多くあります。後者の場合、加工者は経済的に安定していない生産者に対し、成果に見合うフェアトレード取引を行うなど、生産国や生産者の自立支援を含めてチョコレート製造を行なっているケースもあります。

3.1.2.      生産技術の向上

チョコレートの味を大きく左右するカカオ豆の発酵と乾燥。実はこの工程、生産者であるカカオ農家さんの役割なのです。
しかし、必要な機器や設備、そして技術は国や農家の規模によってさまざま。Bean to bar加工者は、自身の目指すチョコレートに必要なカカオ豆を生産している農家を探し出し、交渉や支援をして共に成長するビジネスモデルの確立を目指しています。
Bean to barスタイルの確立と、生産者の技術向上は、切っても切り離せない関係と言えるでしょう。

3.1.3.      環境保全

カカオ豆をはじめとする農産物を育てるために森林を切り開くことで森林破壊が進行していることも一つの事実です。
“世界最大のカカオ産地であるコートジボワールでは、かつて国土の25%が熱帯雨林だったが、現在は4%未満にまで激減しており、その減少には環境配慮に欠けた無秩序なカカオ生産の拡大が大きく影響していると言われている。”
出典:https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002549.html

環境破壊は地球で暮らす全ての人に直結しているため、シビアな問題と言えるでしょう。
また、環境が壊れてしまえば、当たり前ですがそこで継続的にカカオ豆をつくることは難しくなります。そしてカカオ豆が生産できなければ、生産者は仕事や住む場所を失うことになります。
アグロフォレストリーをはじめとする継続可能な農法の導入は、そこに住む生産者の生活確保と、地球環境保全を同時に行うことができる取り組みと言えるでしょう。

3.2.    加工者にとっての良いところ

加工者

3.2.1.      こだわりを貫ける

生産者目線でも伝えた通り、Bean to barスタイルでは、生産者と加工者の距離が近いのが一般的です。
発酵や乾燥の技術力が高い生産者のつくったカカオ豆は、必然的に豊かで多彩なアロマ感やフレーバーを持ったチョコレートに加工しやすくなります。そして、乾燥からあとの工程である、焙煎以降を自社で加工することにより、カカオ豆の持つポテンシャルを最大限に発揮した、こだわりのBean to barチョコレート製造ができるのです。

3.2.2.      人道的事業ができる

世界の100のBean to barメーカーに行った調査によると、カカオ豆を購入する際に最も重要な要素として、29%が「倫理的調達」と答えたそうです。つまり、Bean to barチョコレート工房の約3割近くが、生産者の生活や環境のことを考えて経営しているのです。フェアトレードもそのとりくみのひとつですね。
生産者と加工者が伴走しながら良い商品をつくることができるなんて、素敵なことだと感じます。

3.3.    消費者にとっての良いところ

消費者

3.3.1.      味を楽しむ嗜好性

消費者に嬉しいのは、やはり味わいだと言えるのではないでしょうか。
一般的に多量に流通しているチョコレートの多くは、アロマ感が低く、苦味のつよいカカオ豆をベースとして使用し、そこに砂糖や乳成分や乳化剤などが添加されています。私たちにとっては馴染み深く、おいしいいつものチョコレートで、これもひとつのチョコレートの形と言えます。
一方Bean to barには、アロマ感が強く、フルーツやナッツのような独特な味わいを表現できるカカオ豆が使い分けられています。そして工房の多くが、添加物の使用を最小限・不使用にし、時間をかけて加工しています。
今まで食べたチョコレートとはまた違う、フルーティーな酸味や甘味、香りなどを楽しむことができるのは、Bean to barチョコならではと言えるでしょう。

3.3.2.      お買い物=生産者の生活支援

少し高いBean to barですが、その手間暇を考えれば相応の価格と言えるのではないでしょうか。何気ない日常のお買い物が、生産者の生活を豊かにし、環境保全の役に立つのならば、難しい話は抜きに素晴らしい選択だと私は感じます。

Bean to barチョコができるまで

bean to barの加工

4.1.    Bean to barチョコも加工の工程は同じ

Bean to barチョコレートの具体的な作り方は、一般的なチョコレートと基本的には同じです。
「え!?製造スタイルが違うんじゃないの?」とお思いの方。その疑問わかります。
生産者と加工者の関係やカカオ豆の流通の特徴が「製造スタイル」と考えるとよいかもしれません。そして、カカオ豆からチョコレートになるまでに施す具体的な加工は、Bean to barも一般的なチョコも大きな違いはありません。(もちろん、使う機械や各工程にかける時間は、大企業も小規模工房もそれぞれに独自のこだわりがあります)

4.2.    チョコレートは11の工程でできる

  • 1:発酵
  • 2:乾燥
  • 3:焙煎
  • 4:分離
  • 5:磨砕
  • 6:混合
  • 7:微細化
  • 8:精錬(コンチング)
  • 9:調温(テンパリング)
  • 10:充填
  • 11:冷却

詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
チョコレートのつくり方 工程の説明から製造流通、家庭でできる手作りレポートも徹底解説

Bean to barの味わいをつくる要素

5.1.    【カカオ豆】代表的な3品種・生産地の違い

カカオ豆

カカオ豆の代表的な種類はクリオロ種、フォラステロ種、トリニタリオ種の3種類になります。
カカオ豆の品種の違い、産地の違いによる味の違いについて知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
チョコレートの原料、カカオ豆はどこからやってくる?産地・品種ごとの特徴を解説!エシカルチョコレートの選び方も

5.2.    【生産時】発酵・乾燥の違い

カカオ豆の乾燥

カカオ豆は2段階の発酵を経た後、乾燥されます。この発酵・乾燥の良し悪しが、その後のチョコレートのアロマ感やフレーバーに大きく関わっており、生産者のカカオ豆を管理する技術と、加工者がいかに技術力の高い生産者を探すか(育てるか)が味の決め手になってきます。

5.3.    【加工時】焙煎の違い

カカオ豆の焙煎

出典:https://www.yumeji-coffee-cacao.com/equation.html
加工の中で最も味を左右する工程は、焙煎といえるでしょう。焙煎機も様々な種類が各国から出ており、その仕様は企業秘密となっているケースもあるほどです。

5.3.1.      カカオ豆の焙煎方法

豆ロースト・・・外皮が付いたまま焼く
ニブロースト・・・ニブ状に砕かれた状態で焼く
リカーロースト・・・生のニブからカカオマスを製造してから加熱する
パウダーロースト・・・生カカオマスからココアバターを搾油して得られる生カカオパウダーを加熱する
*主流は豆ロースト法。Bean to bar 専門店もこの方法を採用していることがほとんどです。
出典:https://cacaoken.com/report/bean-to-bar/bean-to-bar003/

Bean to barチョコレートバーの多彩な表現

6.1.    原産国・生産者の違いを表現

商品例:【ダンデライオン・チョコレート】チョコレート・コレクション(3枚)

シングルオリジンのBean to barを楽しむ、最もベーシックなタイプです。原産国や生産者の違いで味が変わることを体感してください。

ダンデライオンチョコレートの商品

商品名 チョコレート・コレクション(3枚)
販売元 ダンデライオン・チョコレート
公式サイト https://dandelionchocolate.jp
国別ラインナップ ベリーズ(中央アメリカ)

ホンジュラス(中南米)

コスタリカ(中南米)

購入できる実店舗 ダンデライオン・チョコレート店舗
オンラインの購入先 https://dandelionchocolate.jp/collections/gift/products/cc03

6.2.    カカオ含有量の違いを表現

シングルオリジンのBean to barチョコにもハイカカオチョコとミルクチョコがあります。スーパーでも買えるチョコのひとつとして定着してきたハイカカオチョコレートと、昔ながらのミルクチョコレートの味わいが異なることは、多くの人が体験したことがあるでしょう。
同じ豆を使用していても、乳成分の有無により味がどのように変化するのか楽しんでみましょう。

6.2.1.      商品例:【green been to bar】ペルー産カカオ豆のチョコバー2種

NATIVO BLANCO -PERU- 73%

¥1,620(税込)

ペルー 購入先

https://onlineshop.greenchocolate.jp/products/nativo73

カカオ豆、オーガニックシュガー

PALO BLANCO -PERU- 50% -MILK-

¥1,620(税込)

ペルー 購入先

https://onlineshop.greenchocolate.jp/products/palo50

オーガニックシュガー、カカオ豆、カカオバター、脱脂粉乳

6.3.    ブレンドやコンセプトの違いを表現

Bean to barチョコにもシングルオリジンだけではなく、カカオ豆の個性を活かしたブレンドや、季節感を演出したコンセプチュアルな商品など、多彩な表現があります。
それぞれ工房の個性がでやすいところだと感じます。お気に入りのメーカーや工房を見つけてみましょう。

6.3.1.      商品例:【Minimal(ミニマル)】Tasting Set S(3種)

商品名 7DAYS CHOCOLATE

曜日ごとの気分に合わせて1日1枚チョコレートを。

販売元 店舗名:Minimal(ミニマル)

運営会社:株式会社βace

内容 日曜日:甘味に浸って明日からに備える

月曜日:キリッとした香ばしさで週を始める

火曜日:まだまだ週頭、清涼感をプラス

水曜日:週の折返しは、旬の風味でアクセントを

木曜日:フルーツの甘さが、疲れた体に染み渡る

金曜日:ガツンと効く高濃度カカオ、最後まで全力疾走

土曜日:贅沢な味わいでゆったりと過ごす

公式サイト https://mini-mal.tokyo
オンラインの購入先 https://mini-mal.tokyo/collections/bean-to-bar/products/100000000543

 

Bean to barの歴史

日本ではまだ目新しいBean to barですが、その歴史は意外に古く、1990年代後半にアメリカのサンフランシスコで誕生した、Scharffen Berger Chocolates (シャーフェン・バーガー・チョコレート)が起源になります。20年近い歴史があるのですね。
シャーフェン・バーガーは、大量生産されているチョコレートへの反動として、元医者のロバート・スタインバーグと、その友人で元シャンパンメーカーのジョン・シャーファンバーガーによって、1996年に設立されたそうです。
彼らの取り組みや、カカオ豆の特徴を活かした複雑な味わいのチョコレートは注目があつまり、2000年代には全米にBean to barの製造が広がったそうです。

Bean to barチョコのおまけ話

bean to barにもさまざまな形がある

8.1.    大企業から小さな工房まで作り手はさまざま

Bean to barチョコレートは、製造工程の全てに関わらなければならないため、小ロットで作られているイメージがあります。(私の場合はありました。)
しかし、実際には株式会社明治さんの有名な「明治 ザ・チョコレート」もBean to barチョコにあたります。また、海外の老舗チョコレートメーカーなどもBean to barを取り入れる流れにあるようです。

明治ザ・チョコレート:https://www.meiji.co.jp/products/brand/the-chocolate/

8.2.    板チョコ以外のBean to bar商品

Bean to barスタイルを用いている商品には、以下のようなものがあります。

ボンボンショコラ、ホットチョコレート、スイーツ(プリンやケーキなど)etc…
商品展開の可能性は無限大ですね。

Bean to barのおすすめショップ

9.1.    東京

9.1.1.      xocol(ショコル)

https://need.xocol.jp

9.1.2.      CRAFT CHOCOLATE WORKS(クラフト チョコレート ワークス)

https://www.craft-chocolate-works.com

9.1.3.      Minimal(ミニマル)

https://mini-mal.tokyo

9.1.4.      green bean to bar chocolate(グリーン ビーン トゥ バー チョコレート)(東京・中目黒)

https://greenchocolate.jp

9.1.5.      Dandelion Chocolate(ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前)

https://dandelionchocolate.jp

9.1.6.      ショコラ工房

https://chocolabo.handcrafted.jp

9.1.7.      OUCHI(おうち)

https://ouchionlinestore.stores.jp

9.2.    京都

9.2.1.      KYOTO COCO(きょうとここ)

https://shop.coco-cacao.jp/categories/362799

9.2.2.      RAU

https://rau-kyoto.com/products/chocolate/

9.2.3.      green bean to bar chocolate京都店

https://greenchocolate.jp/access/

9.3.    名古屋

9.3.1.     choco rico
http://www.chocorico.jp

 

9.4.    兵庫

9.4.1. ICHIJI(いちじ)

https://ichiji.net

9.4.2. Bean to bar chocolate NAGANO

https://peraichi.com/landing_pages/view/beantobarchocolatenagano/

9.5.    福岡

9.5.1.      green bean to bar chocolate(福岡・天神)

https://greenchocolate.jp/access/

9.6.    その他日本

9.6.1. Emilys OKUASAWA(エミリーズ奥沢)

https://emilys.theshop.jp

9.6.2.      Le bonbon et chocolat(滋賀県)

https://le-bonbon-et-chocolat.com

9.6.3.     AMAMOS AMAZON

https://www.ama-ama.co.jp

9.7.    海外

9.7.2.      PLAQ(フランス)

https://plaqchocolat.com

9.7.3.     BONNAT(ボナ)(フランス)

https://www.theobroma.co.jp/shopbrand/ct46/

 

9.7.4. DOMORI(ドモーリ)(イタリア)

https://chocolatducima.com/collections/domori

 

まとめ

bean to barまとめ

さて。Bean to barの意味については、理解できたでしょうか。また、Bean to barチョコの多彩な魅力も伝えられることができていたら嬉しく思います。
みなさんは、どのようにBean to barを楽しもうと思っていますか?食べ比べを重ねて、知識をつけて、人におすすめ商品を教えられる存在になるのもよいですね。または、特定のメーカーや工房のファンになるのも面白いかもしれません。私は、まず難しいことは考えずに、気に入ったパッケージの商品を買って、食べ比べることを続けたいと思います。
チョコの作り手、食べる人、カカオの生産者が良い方向につながることができるこの製造スタイルと共に、私たちのチョコレートライフも日々楽しんでいきましょう。

WRITER
カカオロジスト・ライター
雨宮 麻美
Asami Amemiya

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