カカオの個性を最⼤限に引き出すため真摯に探究する作り⼿を、私たちは「カカオロジスト」と呼びます。「CACAOLOGIST VOICE」は、チョコレート業界にとどまらず、挑戦する⼈や本質を追求する人、独自の感性と想像力で思いを形にする⼈にフォーカスし、その方の思いを紐解くインビューシリーズです。
第2弾は「CACAOLOGY」のレシピ開発責任者であるシェフ・パティシエの宮根聖征。かつて「なめらかプリン」のブームを引き起こした有名プリンブランドで商品開発責任者を約20年務めたスイーツ開発のプロフェッショナルです。宮根がチョコレートベンチャーに参画した理由とは?カカオの可能性を真摯に追求しながら、どこにもない新しいスイーツ作りに挑む彼の世界観に迫りました。
豊富なキャリアを活かしてチョコレートの世界に飛びこむ
──まずは宮根さんのお仕事について教えてください。
カカオロジーの企画・レシピ開発と製造責任者を務めています。カカオロジーの商品はすべて大倉山の工房で作られていて、スタッフとともに一つ一つの工程を手間隙惜しまず手作業で作り上げています。
──ご自身のこれまでのキャリアについて教えていただけますか?
調理師の専門学校を卒業後、国内のホテルやフランス菓子専門店、レストランなどでパティシエの修行を積んできました。
前職は「なめらかプリン」の火付けやけとなったプリンブランドに約20年勤務し、工場長や商品開発責任者を担当してきました。プリンに限らずケーキや焼き菓子類から外部企業の商品開発まで幅広く関わってきました。コンビニのオリジナルスイーツ開発もしていましたね。当時の開発数は年間40~50種類。ですからアイデアの数では誰にも負けない自信があります。
──カカオロジーとの出会いは?
パティシエではない仕事を勉強してみたいと思っていたのですがたまたまBean to Barブランドの立ち上げシェフの募集を見て、“1からチョコレートを作る仕事”に興味を持ちました。もちろんパティシエ30年以上のキャリアの中で、チョコレートを使った菓子も数えきれないほど作ってきました。でも、通常パティシエは「クーベルチュールチョコレート」と呼ばれる製菓用チョコを使います。カカオ豆そのものからチョコを作る仕事は未経験でした。
前職でエコールヴァローナの校長である世界的なショコラティエであるフレデリック・ボウ氏のプライベート講習をしていただいた関係からヴァローナの幹部が前職の会社見学に来た際、定番であるチョコレートプリンを食べてチョコレートの味がしないと言われました。その言葉にかなり衝撃を受けた記憶があり日常的にチョコレートを食べるフランス人にも美味しいと言わせる世界一のチョコレートプリンをいつか作って見せるという夢がありました。そこでなめらかさを失わずチョコレートのパンチを利かせたプリンを作りたいと開発したのがカカオクリュになります。
ひとくくりにものづくりと言ってもただ量産的に物を作っているのが好きなわけでなく人とは違う感性、アイディアで新しいものを創造することが職人の一番の喜びだと思うのでそういうものにしかモチベーションが上がりません。例え誰もが認めるNO1になれなくても誰かの中の唯一無二になれれば最高に幸せです。
手間隙を惜しまずどこにもないチョコスイーツをつくる
──チョコレート作りのノウハウはどうやって?
ここ10年くらいで日本でもBean to Barの概念が広く知られるようになりました。他のブランドのものづくりから学ばせてもらったり、本を読んだり豆を取り寄せて試作を繰返したりと一から勉強し直しました。
パティシエ経験からだいたいの工程は知っていましたが、自ら手を動かして作るのは初めての経験です。修行時代はカカオ豆そのものがまだまだ貴重で手に入りにくく、研修でフランスのヴァローナ工場視察に行った際に初めて実物に触れたほどです。
開発初期はカカオの特徴を捉えるのに苦労しました。同じ条件作ってもカカオ豆の種類によりカカオをすり潰すメランジャーから飛び出してくる豆があったり、テンパリング(温度調整)中に急激にしまって硬くなったり納得のいくチョコレートにならなかったりとカカオの個性をつかむのに一通り全種類繰り返し作りました。今思えば慣れない作業に手を焼いていたことが主な原因でもあるのですがいまだにチョコレート作りの奥の深さに手を焼いています。思い通りに行き過ぎても飽きてしまうので
丁度良いのかもしれませんが。今は毎日カカオに向き合っていますが、品種によって味わいも全く変わるし扱い方も千差万別。毎日が新鮮で楽しいです。
──カカオクリュにはどのような特徴がありますか?
一番の特徴は、Bean to Barのチョコレートで作ったチョコプリンであることです。カカオクリュの製造工程は、まずカカオ豆からチョコレートを作ることからはじめます。このチョコレートがカカオクリュの全ての土台となり、クリュやチョコプレート、カカオニブ、チョコソースまですべてBean to Barのチョコレートを材料にしています。限りなく手間をかけながらも、召し上がっていただいた時に全ての要素が調和し、カカオの味わいをシンプルに感じられるスイーツです。
市販のチョコレートがメーカーオリジナルブレンドコーヒーであるならばBean to Barのチョコレートは産地限定のコーヒーのようなもの。単一品種でそのカカオ豆の特徴をストレートに味わえるので食べた後に鼻に抜ける香りが豊かです。
また通常、カカオクリュはネット販売が主ですので冷凍でお届けします。
水分が少なくチョコレートの含有量が多いのでカチカチでも30分もするとスプーンが入りやすくなり2時間もすると完全解凍に近い状態に。時間帯による解凍加減を楽しむのもカカオクリュの魅力の一つです。夏場はプレミアムアイスクリームの如くいただいたり、半解凍でひんやりデザートとしても。完全解凍されれば食パンにだって塗れるほどなめらかなスプレッド状に。寒い日には別皿に移し電子レンジに数秒かければホットデザートにも。温度の違いでまったく味わいが変わるのでお好みを探すのもまた楽しいのではないでしょうか。
──カカオクリュはどのようにして作られているのでしょうか?
カカオクリュができるまではいくつもの工程があり、実は完成まで1週間〜10日ほどかかります。
まず、チョコレートを作る工程ではカカオ豆を洗浄し1日ほど乾燥させてから焙煎します。そしてカカオ豆を砕いて皮と実の部分に分けたものを2日間かけてローラーでつぶしペースト状にします。そこへ砂糖とカカオバターを加えてなめらかにし、型に流し込んで冷やせばチョコレートの完成です。
──チョコレートを作るだけで数日かかるのですね!
はい、通常はカカオバターが安定するまでには数か月かかると言われているので20℃、55%に設定された部屋で数か月熟成させます。ただカカオクリュはチョコレートだけを味わうわけでもないので数週間寝かせたクリュチョコを砕き、溶解しオリジナルプリン生地とあわせてクリュのベースを作ります。プリンを作る場合はこの生地を裏漉ししてそのまま焼き上げますが、クリュはさらに香り付けをするために副材料を加えさらに1日寝かせてから焼き上げます。クリュを瓶に入れて焼き上げ、ブラストチラーという機械で一気に冷やすことで表面に乾燥した余計な膜が張ることなくなめらかな状態で冷やされます。仕上げにももうひと手間加えます。
普通ならここでソースをかけて終了でも十分リッチな味わいなのですがせっかくBean to Barという強みを持っているのに生かさない手はありません。この商品の主原料であるカカオ豆を焙煎して砕いたカカオニブをこのチョコレートをテンパリングして薄くのばしたチョコレートにトッピングしてオリジナルチョコソースの上に飾ります。そうするとパリッとしたチョコレートの食感とゴリっとしたカカオニブの香りが口に広がり至福の味わいになります。これこそが最初から最後まで飽きずにペロッと食べれてしまうカカオクリュの究極バランスとなります。
──こんなに手間隙が掛かっているとは知りませんでした。宮根さんが感じるカカオの魅力とはどのようなものでしょうか?
パティシエ時代にもいろいろな産地や種類のチョコレートを扱ってきました。市販の70%カカオでも十分おいしいですが、カカオ豆から作ったチョコレートは香りの広がり方が格段に違います。カカオ豆の産地によって特徴が全く異なり、個性を最大限引き出す工程は難しくもありますが、私にとっては魅力だと感じます。
形式にとらわれずカカオの無限の可能性に挑む
──カカオクリュのラインナップは素材の組み合わせもユニークです。アイデアはどこから?
アイデアは頭の中にたくさんストックしてあります。4種類の定番はカカオの個性の違いや組み合わせの妙を楽しんでいただけるシリーズです。毎月変わるシーズナルは新鮮な驚きを感じていただけるよう、季節の素材を使い、見た目にも楽しめる彩りの豊かさも意識しています。
そのほかにもまだ構想段階ですが、香りやスパイスをテーマにしたシリーズや、お酒とのペアリングなども提案できたら面白そうですよね。形式にとらわれずクリュをイメージした焼き菓子などもできるかもしれません。カカオの可能性はまだまだ無限にあると思います。
──カカオロジーというブランドを通して実現したいこと、お客様へ届けたいものは何でしょうか。
ラインナップはどれも自信を持ってお届けできるものばかりです。ただ、パティシエとしては決して満足せず、「今日よりも明日の方がいいもの作れる」と信じて日々カカオに向き合っています。まずは手に取ってもらって、お気に入りのものを見つけていただけたらと思います

星久美子
Kumiko Hoshi