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カカオの個性を最⼤限に引き出すため真摯に探究する作り⼿を、私たちは「カカオロジスト」と呼びます。「CACAOLOGIST VOICE」は、チョコレート業界にとどまらず、挑戦する⼈や本質を追求する人、独自の感性と想像力で思いを形にする⼈にフォーカスし、その方の思いを紐解くインビューシリーズです。
第一弾は「CACAOLOGY」代表の佐々部一宏。コンサルタントという異業種からチョコレートの世界に飛び込みカカオロジーを立ち上げた理由、そしてこれから描く未来とは──。
<プロフィール>
佐々部 一宏 Kazuhiro Sasabe
1990年生まれ。チョコレートベンチャー「CACAOLOGY」、Bean to Barブランド「ショコラミーツ」代表。新卒でアクセンチュア株式会社に入社し、コンサルタントを経て2021年にチョコレートベンチャー起業。登山とトレランが趣味。Twitter: @SaKazuhiro
「ものづくりに挑戦したい」思いから
コンサルタント→チョコレートの世界へ
──まずはご自身のお仕事について教えてください。
「CACAOLOGY」とBean to Barブランド「ショコラミーツ」の責任者としてブランド全体のディレクションから商品企画、製造の品質確認などを担当しています。
Bean to Barとの出会いは学生時代、アメリカ・シアトルに1年間留学していた時です。そこで目の当たりにしたのは「食の多様性」でした。地域にはオーガニックのマーケットやレストラン、ワイナリーが数多くあり、当時アメリカではBean to Barのムーブメントも始まっていました。自分たちの手による一貫したものづくりでオリジナリティあふれる商品を生み出す「クラフトマンシップ」のカルチャーが根付いた街だと感じました。
カカオロジーの立ち上げを決めたのは2020年春のことです。コンサルタントを経て家業の建設会社に入社し「新規事業を立ち上げたい。できればクリエイティブなものづくりに携われたら」と思いを抱いていた時、あるチョコレートブランドのチョコレートを食べてそのおいしさに驚きました。
「どんな方が作っているんだろう?」と調べたら、ディレクターは食の業界出身ではなく異業種から転身された方でした。日本でもクラフトチョコレートが浸透し、自分も挑戦してみたいという思いが強くなりました。
カカオロジーの母体である新世は建設業や福祉事業などを展開しており、製菓事業はまったくの別ジャンルです。最初はなかなか社内からも理解されず反対もされました。そこで、bean to barのブランドの他社の事例も挙げながら「これまでにない世界で認められるチョコレートを作りたい」と周囲を説得しました。
思いに共感した仲間が集まり誕生した
“カカオの新たな形を探究する”チョコレートブランド
──佐々部さんの思いが発端となったカカオロジーですが、チームづくりはどのように進めていったのでしょうか?
「チョコレートブランドを作りたい」といってもまったくの未経験でしたので、まずは一緒に商品開発をしてくれる仲間を探そうとパティシエの求人をスタートしました。その情報を偶然見て手を挙げてくれたのがシェフ・パティシエの宮根です。
カカオロジーのコンセプト設計やブランディングは「エイトブランディングデザイン」に伴走いただきました。代表の西澤明洋さんの経営視点からデザインを創り上げる姿勢や、食関連のブランドを多く手掛けていらっしゃる点に共感し、ウェブサイトの問い合わせフォームからオファーを送りました。何もかもが初めての経験ですごく緊張したのを覚えています。
──これまでの経験が活きたと感じたことは?
いくら熱い思いがあっても感性だけではブランド作りはうまく行きません。他社の事例から学びながらロジカルに戦略を構築していく過程は、前職のコンサルティング経験が活きたかもしれません。
今振り返ると原点は前職にもありました。コンサルタント時代、福島の復興関連プロジェクトに参加し、県内の農業高校で「農業の6次産業化」をテーマにしたワークショップを開催したことがありました。農家の方々や高校生と一緒に地元の農産物を活用した商品企画・販売をするもので、すごく楽しい経験だったんです。地域の豊かな食材に価値を見出し、新たな付加価値を生み出すプロセスに面白みを感じました。
これはカカオにも通じるものがあります。カカオは産地や品種によって多種多様な個性があり、手の加え方次第でさまざまな表情を見せてくれます。知れば知るほど奥深さと可能性の広さを感じています。
カカオクリュは一つの通過点
挑戦を重ねて息の長いブランドに
──カカオを使ったスイーツは星の数ほどある中で、なぜ「カカオクリュ」にたどり着いたのでしょうか。
理由は二つあります。もちろんbean to barのチョコレートバーも面白いですが、一つは自分たちにしか作れないカカオスイーツを作り、Bean to Barの新しい楽しみ方を提案したいからです。
もう一つはパティシエの宮根の経験を活かしたいという思いがありました。カカオクリュにはプリンやチョコレート、ムース、ガナッシュなどさまざまなスイーツの要素が一つに組み合わさっています。時間も手間隙もかかりますが、素材との調和や複雑な重なり合いを楽しんでいただける“唯一無二”のスイーツになりました。
──ブランド作りや商品開発に関して、面白さや大変さはどんなところにありますか?
大変なことよりも面白いことが圧倒的に多いですが、頭の中でイメージした商品をレシピに落とし込んでいくときは試行錯誤の連続です。数え切れないくらい試作しながらも、少しずつ理想に近づいていく過程は学びも多いです。
昨年12月にオンラインサイトがオープンして、今はようやくスタート地点に立ったところです。カカオロジーのチームは、シェフ・パティシエの宮根以外はみんな異業種からの参加者。自分たちの個性を活かしながら、カカオクリュの可能性を一歩ずつ切り拓いて行けたらと思っています。
カカオロジーは”スイーツ”だけに止まらないブランドです。カカオと素材の組み合わせはもちろん、合わせる料理やシチュエーションなどいろんな表現にチャレンジしていきたいですね。
──展開中の商品の中で好きなアイテムは?食べ方も合わせてお聞きしたいです。
個人的には芳醇な香りがお酒と相性がいい「スモーク」が好きです。いろいろと組み合わせを試してみましたが、ウイスキーよりもカルバドスやポートワイン、ボディがしっかりした赤ワインなどもいいですね。食べ方は、冷凍庫から常温に出して5分ほどおいたアイスのような食感がお気に入りです。
──最後に、今後の展望を教えてください。
まずはカカオクリュを大切に育てていくことです。定番のスイーツであまり使われない、意外な素材との組み合わせにもチャレンジしたいですし、新年のご挨拶でも触れましたが、自分が企画立案するスペシャルシリーズ「CACAOLOGYSTシリーズ」も今年から本格的に開発を進めていきます。商品をお届けする手段も、販売スタイルや催事展開含め、よりたくさんの方にカカオクリュを知っていただけるよう動いているところです。
カカオロジーはまだまだ産声をあげたばかりのブランドです。商品もブランド自体もどんどん成長し進化する過程を楽しんでもらえたらと思います。

星久美子
Kumiko Hoshi